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Channel: 映画・海外ドラマ 覚え書き
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NHK杯ふりかえり 羽生氏 SEIMEI

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もはやグランプリファイナルが始まるってのに今更ですが・・。

なんかね、NHKのフリーについては語るも恐れ多くて、10日経ったけど何も書けないです。
震えや動悸や、もう死ぬんじゃないかと思うような興奮はさすがに落ち着いたけど、言葉は出ない。
もう誰が見たって、凄いってわかるから、説明はいらないよね。動画を見たほうがいい。




というわけで、古典芸能目線、能目線で、プログラムについての所感をちょっと書いてみようかなと思うわけですが。

映画「陰陽師」の主演が萬斎先生ということで、このプロにも「能」や「狂言」のアクションが含まれてるんじゃないか・・と思って、アイスショーでのお披露目以来、振付に目をこらしてきた。
・・が、私の見る限り、知る限り、「能成分」はほっとんどないような気がする。
音楽も、雅楽を元にしている感じで、能っぽくはない。
振付から連想したのは、能よりも舞楽、とくに、「陵王」のイメージかなあ。
もっとも、そんなに舞楽をたくさん見てるわけじゃないからテキトウだけど。(笑)

↓舞楽「陵王」

横道だけど、この蘭陵王って武将は、美しすぎて兵士が悶々とするほどの美丈夫だったので、わざと怖い面をかぶって戦い、勝利を得たという、やたら耽美なキャラ設定だったと思う。
中国には彼を主人公にしたドラマさえあるらしいが・・・いったいどーゆー展開なのだろう。(ざわざわ)

・・・
というわけで、じつは、能目線で語ることはあんまりない。
でも、ひとつだけツボってるのは、「鬼」だの「妖怪」だのを調伏する話というのは、能では「切能」とか「5番目物」っていって、必ず最後のトリに上演する伝統があるんだよね。
つまり、このプロを能目線で見ると、
「絶対ショート1位の最終滑走に決まってんだろおらおら~」
っていう空気、別の言い方をすれば、ラスボス感がみなぎっている、ということ。
ちなみにオペラ座とかロミジュリは4番目かなあ。・・演技は2番目の「修羅物」に近いこともあったけど。(笑)


ともかく、そういう些細な現象もふくめて、もうこのNHK杯の演技は、すべての力が羽生氏の足元に集まっていたというか、失礼な言い方だけど、なんだか彼の力じゃなくて、なるべくしてなっためぐり合わせじゃないかと思うような、ものすごい空気があったなと。
最後の足拍子を踏んだときの祝言っぷりなんて、もう、式能「翁」だったからね。

↓唯一、能からインスピレーションを受けたかもしれないと思う、「翁」を象徴する特別な型。

イメージ 1 イメージ 2

いやあ、信仰ってのはきっとこういう場面から生まれるに違いない。

このプロは、振付自体も多少は日本的だけど、それ以上に、羽生氏の取る間合い・・・ジャンプのタイミングとか演技のタメとか・・・・に、日本人の美意識の実感があるところが秀逸なんだよね。
たとえば4Tに入ってから出るまでのスピード感や軌跡は、大きな渦から波頭が飛び出してくるみたいで、静かだけども壮大な景色を感じる。
終盤のハイドロも、月が地球の引力と均衡を保ちながら回っているみたいだし。

彼の演技を見てるとね、日本人は、ただ絵づらとして花鳥風月を愛しているわけじゃないんだな・・ってことに気づかされるの。
地球の重力とか天体の動きとかの、人の力の及ばない物理的な現象への畏怖がまずあって、その法則に限りなく近づいて行けるもの、飛んだり舞ったり回ったりするものに憧れるんだなと。

彼は、このプログラムで、あんまり積極的に「演技」らしいことをしていないようだけど、難度が高すぎていっぱいいっぱいだから手が回らない、ってのとは違うと思う。
彼のは、「人間の作為を感じさせない」という演技だよね。
そのほうがより日本的で、彼らしくて、時にはセクシーでさえあるってことを、今の彼は自覚してやってんじゃないかと思います。

でももし、来季、信じられないような題材・・・たとえばミハルみたいなコテコテのバレエプロ)・・・に挑戦することになっても、今の彼なら、それはそれでしっかり演じてくるだろうという気もする。
彼は「バラ1」で、クラッシックの美意識を表現できるんだってことを見せつけてるからね。
そのポテンシャルがあるからこそ、ああいうシンプル(に見える)演技でも、ジャッジたちは10点満点のPSCを出したのではないかなと思う。

何が言いたいかっていうと、「よく日本が表現されてました。」的な無邪気なエキゾチズムであんな点数が出たわけではないと思うの。
欧米的な人から見て、「こっちの言葉が通じるヤツ」だってことを、1年以上かけてアピールした事実が、地味に効いてると思うし、それはこれからも続く気がするんだ。

ともかく、何か尊いものを見せてもらった気分。
海外解説をひととおり聞いたし、ありとあらゆる絶賛があったけど、一様に語っていたのが
「この演技を見られて良かった」
ということだったと思う。
私の感想も、まさにそれだった。点数なんてものの存在は忘れて、純粋に喜ばしい気持ちになった。
まあ、実際に点数が出たら、発狂するほど興奮したけれど(笑)


そうそう、カナダ大会のときは、ヘロッヘロになってるのを観客の手拍子がなんとか助けてるように見えたけど、今回は、用意していた表現をうっちゃらかして、「あえて」手拍子に乗ったんだってねえ。
どんだけ大物なんだ。(笑)
「場の空気をまとう」「音をつかさどる」そうすれば「そこに生き物がいる」「生きててよかった」と、人は喜ぶと、対談で萬斎先生が言ってたっけ。
羽生氏にはもともとそういう才能があると思うけど、先生のような人物から言葉として聞くと、ストンと落ちて、自信になっただろうな。


最後に、あんまり関係ないけど・・
カナダとフランス大会のときにテレ朝で流れた、羽生氏が晴明神社をお参りするVTR。
あれ、手水の使い方から礼拝の仕方から、完っ璧で、ほんとに驚いた。
とくに手水ね。

手水なんて、世間ではもう、廃れた風習なのかなと思って、子供たちに教えたことなんかない。
自分が母親から教わったときのことは鮮明に覚えてるのに。
そうやって、自分の中に埋もれて、忘れかけて、このまま墓まで連れてくんだろうと思うことが、ほんとに山ほどある。・・・なんか年寄りくさいけど。
ちゃんと子供に教えてやらなきゃダメかねえ・・とちょっと思った。
来年は「ちゃんと」初詣にでも行くかな。

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